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学生時代に、「コバルト錯体の結晶の温度変化」をテーマにしていた。あるコバルト錯体を合成して、温度を変化させながら磁気共鳴で結晶の性質を調べる。 今時は、世の中一日中雑音だらけだが、当時は夜はあまり雑音がなかった。昼間は空間や電源ラインにノイズが多いので、世間が寝静まってから実験をする。 (1) 試料を液体窒素温度に冷やして、測定する。 (2) 少し温度を上げて、一眠りする。 (3) 温度が安定したら、測定する。(2) にループ。 (4) 朝、雑音が増えてきたら、ループから抜ける。 というような事情で、15分間で測定、15分間眠るという生活を数ヶ月送った。 慣れるとそういう睡眠方法が可能になるという話も面白いが、それはまた別の話。 何しろ研究室に金がなかったので、磁気共鳴の装置は手作り、温度制御は人力、という有様だ。 どんな温度制御かというと。 デュワー瓶に液体窒素を入れて、試料をザブンとつける。ジャッキのネジを少し回して、試料を液体窒素から少し上げる。温度の安定を待つ。以下繰り返し。 デュワー瓶の下の方は液体窒素温度、上の方は室温に近く、瓶の中に温度勾配が出来ている。上手くジャッキを上げ下げすれば、+−1℃くらいの精度で超低温実験が出来るという次第だ。 こういう職人技の人力温度制御が学部の学生に要求された時代だった。まあ、練習すれば不可能ではないが、何しろ眠たい。 何とか、もう少しマシな温度制御が出来ないかと考えて、温度制御の勉強をしたことがある。結局、間に合わずに卒業してしまったが。 以上、前振り。以下、本文。 ヨーグルトや甘酒の培養器を作った事がある。(甘酒は培養ではなく、酵素反応だが。)オンオフ制御で、+−2℃くらいの精度はだせる。 しかし、さらに高性能な温度制御をしようとすると、PID制御になるだろう。設定温度への追従性と外乱制御を両立させようとすると、さらに、2自由度IPD制御が使われる。 当時の私としては温度制御の勉強だったが、これはどんな制御系にも言えることだし、もしかして、プロジェクト管理、会社の経営、経済全体なども同じように考えられそうな気がする。 PID制御=P(比例フィードバック)+I(積分フィードバック)+D(微分フィードバック) (1) 比例:目標値と現在値の差が大きいほど大きなフィードバックをかける。 (2) 積分:安定値と目標値との誤差を小さくする。 (3) 微分:外乱の変化が速いほど、大きなフィードバックをかける。 普通はこれで十分だが、「目標値に最大速度で収束する」という課題と、「外乱を最短時間で修正する」という課題は、矛盾することがある。 つまり、P,I,Dの制御だけでは最適化できないことがある。そこで、「目標値に最大速度で収束する」ためのフィードバックと、「外乱を最短時間で修正する」というフィードバックを別のループにしたのが2自由度IPD制御だ。 何だか、色々応用できそうじゃないか。例えば、我が家の家計を最適化して、最速で(適正規模の)金持ちになって、なおかつ病気や事故などのトラブルがあってもすぐに回復できるようにするとか。体重管理を最適化して、速くて楽なダイエットをするとか。 勿論、こんなのは古い(何しろ私の学生時代以前の)制御方法で、今時はモデリングによるフィードフォワード制御などという訳のわからんものが有るようだ。 まあ、速さと変化を求める若者ならフィードフォワード制御もよかろう。歳を喰ってくると、フィードバックが似合うようになるものさ。 |
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