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 寝床に入ったときや、夜中に目を覚まして、眠ろうと思えば思うほど目が冴えてしまう事が有る。

 忘れてしまいたい嫌なことが頭の中をグルグルと回って、追い出すことが出来ない。枕元の時計を見ると、もう1時間も同じ事を繰り返し考えている。明日の仕事に差し支えるなあ。

 そんな時の必殺技がある。必ず眠れる。要するに、何も考えないようにすれば良いのだ。



 ファインマンの「ご冗談でしょう、ファインマンさん」という本に、2つの違った数を同時に数える、という実験が載っている。

 心の中で、「1,2,3,・・」と数えることはできる。心の中で、カウンターが「1,2,3,・・」と増えていく様子を思い浮かべることもできる。この2つを同時にできるか。もちろん、同じ数字なら誰でもできるに決まっているので、異なった数を数えるのだ。

 要するに、心の中で視覚と聴覚を別々に使って数を数える。

 ファインマンは、練習をして、2つの異なった数を数えながら、1日の生活をこなせるようになったらしい。天才というのは何を思いつくのやら。



 普通の人にはそんなことはできないが、寝床の中でなら、練習すればできるようになる。そして、2つの数を同時に数えていると、それ以外のことは考えられなくなる。

 つまり、心を無にできるのだが、これでは眠れない。2つの数を数えるのは相当集中力が必要で、頑張って集中すると、余計目が冴えてしまう。



 そこで私は1つの方法を考えた。

 心の中で声を出して数を数える所まではファインマンと同じだ。視覚の方は、よく知っている道筋を思い浮かべることにする。

 私は自家用車で通勤していたので、家から職場までの道筋を思い浮かべるようにした。

 まず、寝床からスタートする。寝床を出て、ドアを開け、廊下を通って、階段を下りる。玄関を出て、家の前の道を進んでいく。1軒目、2軒目、・・・。村を出て幹線道路に出る。・・・・。

 いつも通っている道なので、無意識にたどっていける。不思議なことに、現実に通っているときは気がつかなかったのに、思い浮かべていると、あんな所にカンバンがあったのか、と気付くことがある。

 数を数えながら、道筋を思い浮かべていると、他のことは考えられなくなる。嫌な思い出が割り込んでこようとする事も有るが、強制的に計数と道筋に意識を向けると、消し去ることができる。



 多少の練習は必要だが、この方法でどんな雑念も追い出すことができるようになる。



 要するに、心の中の視覚と聴覚を他のことに使えないようにすればよいので、思い浮かべるのは道筋でなくても良いと思う。ただし、思い浮かべるのに努力が必要な事柄はダメだ。



 その後、私は自律訓練法と呼吸法を取り入れて、どんなに眠れない時でも、100数えないうちに、つまり1分もかからずに眠れるようになった。



 自律訓練法と呼吸法については、また別に。