同軸ケーブルの短縮率

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 真空中を電磁波が伝わる速さは2.998×10^8m/sだ。(約3.0×10^8m/sとしても、0.1%の誤差なので問題ない。)

 一方、真空以外の媒質中では電磁波が伝わる速さはもっと遅い。その比率を速度係数という。

 アマチュア無線では、同軸ケーブル中を伝わる速さや、アンテナ線上を伝わる速さが問題になることが多いので、速度係数のことを「波長短縮率」と呼ぶ。

 本やネットでは、短縮率は同軸ケーブルの端に2,3ターンのコイルをつけて、ディップメーターで調べよと書いてある。

 恐らくそれでよいのだろうが、コイルの長さはどうでも良いのか、とか些細な事が気になる悪い性分だ。杉下さんの気持ちはよく分かる。

 そこで、リターンロスブリッジにつないで測ってみた。

  
 長さ1mほどのRG58UにBNCコネクタをつけて、リターンロスブリッジに取り付ける。

 同軸の反対側はオープンにしておく。
 リファレンスのダミーロードははずしておく。

 即ち、リファレンスを無限大にするのだから、同軸のインピーダンスが無限大の時に、バランスする。
 同軸ケーブルは、ショートすると反対側から見てλ/4の時に無限大、オープンにするとλ/2の時無限大になる。

 従って、上の同軸ケーブルをスペアナで見ると、こういう具合にλ/2ごとにディップが綺麗に並ぶ。

 リファレンスのはずせないリターンロスブリッジでは、ディップが綺麗に出ないので、少し工夫が必要になるだろう。
  
 ディップの周波数の低い方から番号をつけて周波数を読み取る。少しやり方を変えて、同じグラフから2回読み取ってみた(周波数1と周波数2)。

 その間隔(周波数差)を計算する(周波数差1と周波数差2)。

 プロットしてみると下のグラフの通り。

   
  
 1MHz以上のブレがある。2回とも同じ傾向なので、スペアナの周波数に問題が有るようだ。私のキャリブレーションが悪いのか、スペアナの誤差が大きいのか。

 ともかく、測定結果に1%程度の誤差があるのは覚悟しておこう。


  
 少しずつ切り詰めながら、ケーブルの長さと、ディップの周波数差を測る。

 以後の測定は、同軸ケーブルの1つの寸法あたり2回計測して平均したもの。
  
 はじめに111cmあった同軸ケーブルを約10cmずつ切り詰めながら測定を繰り返す。

 当然、同軸が短くなるに従って、λ/2に相当する周波数が高くなっていく。

 λ=v/f だから、長さと周波数をかけると、同軸ケーブル中の速度が出る。

 それを真空中の速度c=3.0×10^8m/sで割ると速度係数(短縮率)が求まる。

 番号順に速度係数をプロットすると、下のグラフのようになる。

  
  
 明らかに6番のデータがおかしい。測定ミスに違いないので、このデータは捨てる。

 10番のデータもおそらく怪しい。このように、データを視覚化すると、全体像が非常によく分かる。

 はじめに測定精度がせいぜい1%であることを確かめているから、誤差は0.007位はあるはずだ。

 以上の考察から、6番と10番のデータを無視すると、RG58Uの短縮率は0.67。500MHz以上では0.68。精度は+-0.01。」と結論して良いだろう。

 しかし、まだ安心するのは早い。

 同軸ケーブルの絶縁体はポリエチレンだ。500MHz程度の周波数で誘電率が変わるとは考えにくい。

 500MHz以下と以上で短縮率が違うのは、測定誤差と考える方が良い。こいつを補正してみよう。
   
  
 同軸ケーブルの長さは、このようにコネクタの先から測っている。

 この測り方が正しいかどうかは、リターンロスブリッジブリッジの構造なども絡んでくるので、非常に難しい。

 そこで、はかり方のズレの値を、全部の長さのデータから差し引く。
  
 こういう事をやるのは、エクセルは大得意だ。まあ、それも当たり前で、そもそもエクセルはシミュレーションのためのソフトとして開発されたものだ。

 補正値を色々試してみた。上の表やグラフの通り、-0.2cmとすると、約100MHzから1,000MHzまで0.664前後で一定になる。

 つまり、このはかり方では2mmほど長すぎたということだ。以後、注意しよう。

 精度が1%ほどなので、最下位の桁を四捨五入しても良い。これで本当の結論とする。

 RG58Uの速度係数(=短縮率)は0.66(誤差+-0.01)である。

 なあんだ、そんな事はネットにいくらでも書いてあるよ、と言うなかれ。自分で確かめたことに意味がある。

 このノウハウを応用して、次はシュペルトップの短縮率を調べてみたい。

 以前ヘンテナを作った時にググっていて気がついたのだが、同軸に網線をかぶせて作るシュペルトップの短縮率を、同軸ケーブルの短縮率0.67としているサイトが多い。

 しかし、同軸ケーブルの外皮は塩化ビニルなので、短縮率がポリエチレンと同じとは考えにくい。

 長さの間違ったシュペルトップは何の効果もない。さて、実測したらどうなるかな。


  
 切り刻まれた同軸ケーブルは、こんな姿になってしまいました。ナマンダブ。

 ありがとう。君たちがくれたノウハウは無駄にはしないよ。

 何かお役にたつ日が来るまで、ガラクタ箱の底で、静かに休み給え。
  
【オマケ】速度係数の計算値について

 速度係数と誘電率の間には次の関係がある。ただしVrは速度係数、εは比誘電率。

Vr=1/sqrt(ε)

 ポリエチレンの比誘電率はε=2.2~2.4とあるから、速度係数は、0.65~0.68になる。同軸ケーブルの速度係数と良く一致する。

 従って、同軸ケーブル中の電磁波はポリエチレンの中を伝わっている、と理解すれば良さそうだ。

 同様にして、塩化ビニルのシュペルトップの短縮率を予想する。

 塩化ビニルの比誘電率は、2.8~8.0と幅がある。ここから速度係数を計算すると、0.35~0.60になる。幅が広いが、いずれにせよ 0.67 ということは無さそうだ。