安保関連法案(3)   2015.9/19


・考え事にもどる

   

 今日の未明、安保関連法案が参議院を通過した。まあ、当然の成り行きで、野党の反対行動もパフォーマンス以上の物ではない。

 今回よかったのは、多くの有権者(と、未成年もたくさん)が「デモや集会で意思表示をすることができる」ということを思い出したことだろう。

 しかし、その論点について、私は「戦争法案」かどうかということよりも、この法案の違法性の方が気になる。



 昨今は世界情勢が大変流動的で、「今までこれでよかったのだから、これからもこのままでよい」と澄ましているわけにはいかない。憲法や法律も改める必要が有るかも知れない。

 今回成立した法律が、今後、戦争への「抑止力」になるか「火種」になるかは時間が経ってみないと分からない。



 それよりも、現時点で明らかなのは、この法律自体の違法性が極めて高いことだ。

 違法と分かっている法案を政府が提出し、それを国会が追認した。その前例ができてしまったことは、今後に重大な禍根を残すに違いない。



 法案には違法と思われる点が3点有る。

(1) 安倍総理大臣が、アメリカ連邦議会で、「この法案を今期国会で成立させる」とはっきり約束したこと。 国内の立法に関して、外国にこのような約束をする権限は総理大臣にはない。

 それでは、権限がないんだから、言うだけなら別に違法じゃないだろう、という考え方はできるだろうか。

 政府の最高責任者が、外国の議会で発言したことは、当然だが条約に次ぐほどの拘束力を持つ。「言ったけど、実行できませんでした」では済まない。(だから、ごり押しだろうが何だろうが、通そうとしたのだろうし。)


(2) この法案は、違憲である。
 しつこいくらい報道されているので、知らない人は少ないだろう。これに対して、政府側の「合憲である」という主張は、砂川事件まで持ち出さざるを得ないほど根拠に欠ける。


(3) 法案の内、「安保関連法一括改正法案」は法案として不十分である。

 法案は大きく2つに分けられる。一つは「国際平和支援法案」(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)。

 もう一つは、それに関わって、条文を変更する必要があったりする法案をひとまとめにした「安保関連法一括改正法案」(我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案)だ。

 安保関連法一括改正法案には、次の20個の法律の改正が含まれる。

1.自衛隊法(第一条関係)
2.国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(第二条関係)
3.周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(第三条関係)
4.周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律(第四条関係)
5.武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(第五条関係)
6.武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律(第六条関係)
7.武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律(第七条関係)
8.武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律(第八条関係)
9.武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律(第九条関係)
10.国家安全保障会議設置法(第十条関係)
11.道路交通法(附則第三条関係)
12.国際機関等に派遣される防衛省の職員の処遇等に関する法律(附則第四条関係)
13.武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(附則第五条関係)
14.武力紛争の際の文化財の保護に関する法律(附則第六条関係)
15.原子力規制委員会設置法(附則第六条関係)
16.行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(附則第七条関係)
17.サイバーセキュリティ基本法(附則第八条関係)  
18.防衛省設置法(附則第九条関係)
19.内閣府設置法(附則第十一条関係)
20.復興庁設置法(附則第十二条関係)


 その中身は、「条文の番号の振り替え」というような些細な改正から、「武力行使の可否」という極めて重要な内容まで、色々なレベルの改正を全部まぜこぜにしてある。

 さらに、各法律の改正点も1個ずつではないから、本来なら、何十にも分けて、詳しく論ずるべきを、一括して可否を問う、という信じられない提案の仕方をしている。

 一歩退いて、全部まとめたことを、仮に可としよう。それならば、まとめてでもよいから、精細に検討して、良しとすべき点は確認し、不都合は修正すべきだ。

 しかし、国会の議論は形式的なもので、結局のところ、全く修正しないで通してしまった。(もっとも、これは野党の不手際に責任があるとも言えるが。)



 アンケートに依れば、回答者の80%が「よく分からない」のだそうだ。回答者が、改正法案をどれだけ知っているか怪しいものだが、それを回答者のせいにはできない。

 もし仮に、この改正案をじっくり読んでも、要点を理解できる人は多くないだろうから。

 なにしろ、わざと煙にまこうとしたとしか思えない提案の仕方だ。心ある者のすることではない。