アベノミクスが分からん   2015.8/30


・考え事にもどる

   

 今、安保関連法案が大詰めを迎えているところだ。

 この前の選挙で安倍自民党が大勝したのは、アベノミクスに対する信任だったと考えて良いだろう。長年不景気にあえいでいたので、ともかくも成果をあげているアベノミクスが承認されたのは当然の成り行きだ。

 ところが今、自民党は安保関連法案を押し通そうとしている。誰もそんな事頼んでないでしょ。経済に専念して欲しい。

 言わば、経済を人質にとって安保を押し通そうというわけで、卑怯未練この上ない。ここで人気を落として、アベノミクスまで失敗したらどうするつもりだ。



 それはそれとして、私はアベノミクス自体に疑問を持っている。

【前提】国債の引き受け手は銀行や保険会社などだ。つまり、国債を買う金は、大方が預貯金や保険金でまかなわれている。

 グラフにしてみた。「その他金融機関」というのは日銀、郵貯、農協、信販会社、投信、FXなど。

 海外は5%だ。(全部円建てだそうだ。)これを指して、「日本はギリシャとは違うから大丈夫」と強弁する連中も居る。オイオイ、海外に国債を売り込もうと必死になっていたのは誰だったかな。

  




 さて、前提を元に、アベノミクス関して、次の2点について考えてみる。

(1) 景気が良くなって見えるのは、1,500兆円ともいわれる個人資産を取り崩して、湯水のごとく浪費しているからだ。

(2) 国債を大量に発行することと、個人資産や年金基金の運営を株式に誘導することは矛盾するのではないか。


 まず、(1) について。「浪費」と書いたが、そこは議論のあるところだから、ひとまず置いといて。

 別の統計を見ると、都市銀行、地方銀行、第2地方銀行の2015年5月の預金残高は633兆円、貸出残高は487兆円だ。預金のおよそ4分の3が貸出だから残り4分の1即ち146兆円が運用ということになる。その内何%を国債で運用しているのかは分からないが、100%としても146兆円だ。


 この例からも、1,500兆円の個人資産が有ると言っても、その全額を国債の購入に充てるわけにはいかないのが分かるだろう。毎年国債の発行残高がこのペースで増えていくとと、せいぜい10年前後で行き詰まる計算になる。

 つまり、こんな方法で景気が良くなっているように見せかけられるのは、あと10年ほどだ。

 国内で買い手が無くなると、外国に買ってもらわなければならなくなる。ギリシャと同じだ。その場合、今のような低金利では売れるはずはない。つまり、日本人は一生懸命働いて利息を外国に払い、借金は減るどころかさらに増えていく。

 それを避けるために、日銀がどんどん国債を買えば、円が過剰になってインフレが爆発する可能性が高い。安倍内閣はインフレはコントロールできると言っているが、どういう根拠だろうか。


 次に(2) だ。

 (1) で書いたように、アベノミクスは1,500兆円の個人資産を当てにして、市場に金をばらまくことによって成り立っている。ところが一方で、安倍内閣は、株高誘導のために、資産の運用を株に振り向けさせようとしている。

 総額は一定なのだから、株を買うと言うことは、銀行などの預貯金が減るということだ。それは即ち、国債の買付余力が減少して、アベノミクスの破綻を早めることになる。

 これは、個人消費を増やす、という選択肢でも同じ結果をもたらす。内需を増やせば、預貯金が減る、以下同じ。

 ついでに言うと、年金基金の運用の内、株式の比率を高めるのも、同じ結果をもたらす。


 要するに、アベノミクスは資産を食いつぶして、ぬか喜びしているだけで、早晩破綻するしかない。さらに、株高誘導策は、破綻を早めることになる。



 まあ、これが、素人考えの的外れであることを祈る。



 ところで、この考えに対する反論を見つけた。要するに、これは家族の中の金の貸し借りと同じなので、心配するには及ばない、というものだ。

 おいおい、それは逆から見れば、いくら貯金しても資産にならない、と言っていると同じじゃないか。(ある意味、本音が漏れてしまった、ということだな。)

 例えて言えば、息子がオヤジに金を貸した。オヤジはその金を使ってしまって、息子に金を返す当てがない。この場合、家庭内の貸し借りだから、返せなくても心配するには及ばない、と言えるのかね。ごまかしも程々にしてもらいたい。


 預貯金のかなりの部分が国債の購入に使われてしまった。国は国債を買い戻す金がない。つまり、その分の預貯金はおろすことができない、ということだ。

 国は金が足りない。本来ならやるべき事は、税金を増やすか、支出を減らすかしかない。しかし、それはどちらも国民に人気が悪い。

 そこで、「国債」という形で国民から金を吸い上げる。その金は返してもらえる当てがない。

 つまり、「返せない」国債を発行するのは、(分からないようにごまかして、)実質的に税金を増やしているのと同じ事だ。

 第2次大戦の時、国が郵便貯金を奨励したのを憶えていますか。その郵便貯金は戦費に使われてしまって、おろすことはできなかった。



 「国債の買い手の内、外国人が5%なので心配ない。」という言い方は、「日本人は、国に対する貸しを返せとは言わないから、大丈夫だ。」と言っているのと同じだ。なめたらいかんぜよ。